![]() |
池畔の柳影 西條藩見聞録 |
|
その九 隙見たり 〜第七章『片意地侍』より〜
田辺寅之丞は藩の横目役専蔵の次男である。武道執心で、萩藩の長谷川流内藤左十郎の門に習った。 二年後に帰藩したが、元来粗雑な気質で、修業の効を吹聴してやまなかった。かつての同僚原伝蔵を、ややさげすんだ口調で、 「近頃、藩の武道は、貴公のような相変わらずの者ばかりで、見るべき人物がいない。おれは少々、長谷川流を学んできたが、剣は技ではない、気だ。おれの気はいつも体一杯に充満している。夜も昼も四六時中、冴え返っている。貴公、おれに隙(すき)が見えたなら、何時でも打って来い。思い悟ることもあろうよ」 伝蔵は所用あっての帰路、大町村天皇川の大橋の下で、砂でも入ったらしく、しきりに目を洗っている寅之丞の姿を見た。うつ伏せになっている後ろから近寄り、 「隙見たり」
|